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孔食成長挙動の解析

公開日:2021年12月13日

Phase-field法に基づくニッケルめっき金属の孔食成長挙動の解析

ニッケル・クロムめっきは外観と耐食性、耐摩耗性にすぐれ、自動車部品をはじめとした装飾分野の最終仕上げめっきとして利用されている(1)。しかしながら、ある臨界濃度以上の塩化物イオンがある環境ではクロム酸化不働態皮膜が局部的に破壊され、孔食を生じる(2)。また、傷によりニッケルや鉄素地に到達するピンホールが発生する場合もある。孔食は局部腐食が金属の内面に向かって孔状に進行する腐食であり、まずニッケルが腐食されて鉄素地が露出すると、鉄の腐食が進行する。孔食の発生は2つの段階:ピンホールの生成と孔状に深くする腐食の進展に分けられている(3)。本研究では、 2層の金属の界面を通る孔食の電気化学モデリングの開発を目的として、金属表面のアノード反応とクロム酸化皮膜表面のカソード反応を考慮した電流分布の計算に孔食の進展を捕捉するPhase-field法を導入し、ニッケルから素材鉄の領域に至る孔食の解析を行う。

   図1. 解析モデル

本例題は図1に示したように孔食の進展に対応するニッケル・鉄の溶解反応および水膜中の溶存酸素の還元反応をカソード反応と仮定した。電気化学反応式は以下に表われる。

アノード溶解:
Ni→Ni2++2e  (1)
Fe→Fe2++2e  (2)

カソードでの酸素還元反応:
O2+2H2O+4e→4OH  (3)

式(1)-(3)に示す化学反応の電荷移動による電流密度はターフェル式で記述される
ia=i0,a×10η/Aa  (4)
ic=i0,c×10η/Ac  (5)

ここで、aとcはそれぞれアノードとカソード反応を意味する。i0は交換電流密度、${A}$はターフェル勾配、 η=φsleqは過電圧、φsは電極電位、φlは電解質電位、φeqは平衡電位である。

 表1 Parameters for Tafel expressions

本研究に利用するパラメータは表1に示されている。腐食がNiとFe界面に通る時には、φeqの差は0.183Vであり、A=100mVであれば, iaは67.6倍高くなり、腐食の進展に繋がる計算は困難である。これに応じて自由界面を高精度で捕捉するPhase-field法を電流分布の計算に導入した。
Phase-field法によるアノード溶解の挙動を捕捉する計算は以下のPhase-field変数の計算方程式(5)を解く。

ここで、uは金属表面の溶解速度、γは移動度、εは界面の厚さのパラメータ、λは混合エネルギー密度である。ϕはPhase-field変数、ϕ=0は界面で表される。アノード溶解速度uは式(8)によって求められる。

u=n∙($\frac{^𝑖loc}{2F}\frac{M}{𝜌}$)  (8)

ここで、${M}$と𝜌はNi/Feのモル質量と密度、𝑖loc(=𝑖a)は腐食電流密度を意味する。
アノード溶解に対する界面での電極反応速度は電解質電流ソースで定義される。電解質電流ソースQ𝑙は式(9)で計算される。

Q𝑙=𝑖locδ  (9)

ここで、δはデルタ関数であり、式(10)に表れている。

𝛿=$\frac{3}{4}(1−𝜙^2)|∇ϕ|$   (10)

本研究では、2層の金属の界面に通る孔食の電気化学モデリング手法を検討することで、Phase-field法が孔食解析に適する有効性を検証する。金属溶解により生成したイオンによる溶液特性変化を含まない。
図2は孔食により300hと400h後の電解質電流密度の計算結果である。ピンホールはニッケル領域までに至ることを考慮する。孔食NiとFeの界面を通る前後の電解質電流密度を大幅に増加することが示された。溶液の体積比率は図3 (左)に示されている。孔食は鉄に入ると腐食が鉄の中に拡大して行くと共にニッケルの腐食を停止させる。 ガルバニック腐食が形成されると考えられます。図3(右)にNiとFeの界面の中心点での電解質電流ソースQlを示している。

  図2. 孔食がNiとFeの界面に通る前後の電解質電流密度
  図3. 孔食400h後の電解質体積比率およびNiとFeの界面中心での電解質電流値

参考文献

  1. 杉浦啓規, 前田亮, 木曽雅之,クロムめっき皮膜の酸化皮膜状態と耐食性表面技術,Vol. 69, No. 6 (2018), pp. 240-243.
  2. 藤本慎司, 小田原雅司,孔食発生・成長の数値シミュレーション,計算工学,Vol. 25, No.3 (2020), pp. 41140-4117.
  3. T. Q. Ansari, Z. Xiao, S. Hu, Y. Li, J. Luo, S. Shi, “Phase-field model of pitting corrosion kinetics in metallic materials”, NPJ Computational Materials, Vol. 4 (2018), p.38.
  4. 林茂雄,エンジニアのための電気化学,コロナ社 (2012).
  5. COMSOL Multiphysics: https://www.comsol.jp/corrosion-module.

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