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PEM型燃料電池のサロゲートモデル

公開日:2024年8月23日
最終更新日:2024年8月23日

固体高分子形燃料電池(PEMFC)は水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させ、電気と熱を作るクリーンなエネルギーシステムであり、低出力でも発電効率が高いといら優れた特長をもち、家庭用燃料電池エネファームや燃料電池自動車などに採用されている。ポリベンズイミダゾール(PBI)ベースの膜を備えた高温PEM型燃料電池(HT-PEMFC)は、低温パーフルオロスルホン酸ベースの膜と比較して優れた性能を備えているため、次世代の発電デバイスと考えられている ${ }^{(1)}$ 。
固体高分子形燃料電池のシミュレーションについては、3種類に大別され、ナノスケール、メソスケール、マクロスケールの手法がある。ナノ/メソスケールのシミュレーションは、アイオノマーの物質輸送特性やプロトン伝導度の算出に取り込む。ここでは、燃料電池の発電性能を分析するマクロスケールシミュレーションを目指す。燃料電池のマクロスケールシミュレーショには基本的に三次元マルチフィジックス(大規模・複雑)な解析なので、産業分野においては、実用的な計算時間内に装置開発の指針となる結果を得ることが困難になっている。
本例題では、計算負荷が非常に軽くなるサロゲートモデルを検討する。CAE解析により取得した教師データを深層学習(DNN)モデルに導入し、燃料電池の発電性能を予測するサロゲートモデルを構築する。CAE結果と比較することによって、サロゲートモデルの有効性を検証する。

図 1. 典型的な PEMFC 構造 ${ }^{(2)}$ 。

図 1 に典型的な PEMFC 構造を示す。 PEMFC は BPs (bipolar plates)、フローチャネル、 GDL(gas diffusion layer)、 MPL (micro-porous layer)、 CL (catalyst layer)および PBI 膜 PEM で構成される ${ }^{(2)}$ 。 アノードでの水素の酸化反応およびカソードでの酸素還元反応を次式で示す。
$$
\mathrm{H}{2} \Rightarrow 2 \mathrm{H}^{+}+2 e^{-} \tag{1}
$$
$$
\mathrm{O}{2}+4 \mathrm{H}^{+}+4 e^{-} \Rightarrow 2 \mathrm{H}_{2} \mathrm{O} \tag{2}
$$

図 2. 解析モデル.

計算モデルを図2に示す。 PEMFC の長さは 50 mm 、フローチャネルの高さと幅は 1 と 0.8 mm 、GDL と MPLの厚さは 0.19 と 0.02 mm 、アノード CL とカソード CL の厚さは 0.005 と 0.01 mm 、PEM の厚さは $0.0508 \sim 0.127 \mathrm{~mm}(2 \sim 5 \mathrm{mil})$ である。供給ガスの相対湿度を $100 \%$ 、操作圧力と温度を 1 atm と $180^{\circ} \mathrm{C}$ 、アノードとカソードのストイキ比を 1.2 と 2.0 とする。

本例題のサロゲートモデルのトレーニングは、深層学習(DNN)モデルを利用する。このモデルは、入力層、中間層(隠れ層)および出力層である。各層は、多数のノード、つまりニューロンで構成される。図3に5層のニューラルネットワークを示す。

Deep Neural Network

図 3. 5 層のニューラルネットワーク

サロゲートモデルの教師データはCOMSOL Multiphysics(以下、COMSOL)によるCAE計算からの出力データに基づいている。教師データを効率的に取得するため、COMSOLの専用のサロゲートモデルトレーニングスタディは過度のCAE計算を必要とせずに入力空間を均一にカバーするデータセットを生成するラテン超方格サンプリング(Latin hypercube sampling、LHS)法を 「実験デザイン」法として採用する。

本書では、解析モデルおよび、2章以後に図5と図6の解析結果を作成する手順を示す。
図 4 は COMSOL の専用のサロゲートモデルトレーニングスタディの設定画面であり、その中でセルの電圧( $\mathrm{V}{\text {cell }}=0.38 \sim 0.97 \mathrm{~V} )$ と PBI 膜の厚さ( $\mathrm{H}{\text {membrane }}=2 \sim 5 \mathrm{mil} )$ をサロゲートモデルの入力データ、I-V 特性、出力密度、流速、 $\mathrm{H}{2}, \mathrm{O}{2}, \mathrm{H}_{2} \mathrm{O}$ の濃度分布を出力データとする。入力データの点数は 100 である。

図 4. サロゲートモデルの設定画面.

図5はサロゲートモデルによる放電曲線と出力密度の予測結果およびCAE結果との比較図である。PEMFCのCAE解析を定常計算で行った。PBI 膜の厚さを $2,4 \mathrm{mil}$ とした。両者はよく一致したことで、モデルの有効性が検証されたが、高電流密度である場合は、サロゲートモデルにより予測した出力密度がCAE結果より少し離れ、学習不足になつたと考えられる。PEMFCにおけるガスの流速および $\mathrm{O}{2}$ と $\mathrm{H}{2} \mathrm{O}$ のモル分率を図6に示している。サロゲートモデルにより予測した結果の3D分布もCAE解析結果とよく一致した。

サロゲートモデルは予測結果を即時反映できるので、PEMFCシミュレーションへのサロゲートモデルの活用を推進することが期待される。

図 5. サロゲートモデルによる予測結果およびCAE結果との比較.
図 6. サロゲートモデルによる3Dモデルの予測結果(右)およびCAE結果(左)との比較.

参考文献

  1. E.U. Ubong, Z. Shi, X. Wang, “Three-Dimensional Modeling and Experimental Study of a High Temperature PBI-Based PEM Fuel Cell,” J. Electrochemical Soc., vol. 156, no. 10, pp. B1276–B1282, 2009.
  2. G. Zhang, L. Fan, J. Sun, K. Jiao, A 3D Model of PEMFC Considering Detailed Multiphase Flow and Anisotropic Transport Properties, Int. J. Heat Mass Transf., vol. 115, pp. 714–724, 2017.

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