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資料DL_AMR法を用いた大気圧ストリーマ進展モデル

公開日:2025年12月22日
最終更新日:2025年12月23日

ストリーマ進展のシミュレーションについては,古くから報告例がある.しかしながら膨大な計算量による制限から,シミュレーションは1次元,もしくは1.5次元モデルで行われてきた.ストリーマ進展の特徴の一つである電子輸送の高いペクレ数に対して,数値解析に安定化技術への制限がある.安定化条件を満たさない場合は,電子密度がマイナスになる非物理的な数値などのアーティファクトが生じる.
ストリーマ放電モデルの作成において,計算領域のメッシング生成は重要な要素の一つである.ストリーマヘッドでの電荷分離層の厚さは数十μmのオーダー(典型的な要素サイズは~10 μmである)であるため,このような薄い層をキャプチャできるように非常に細かいメッシュが必要になる.さらに,メッシュは伝搬するプラズマフロントを追従する必要がある.よって,ストリーマ放電におけるメッシング生成は,非常に困難であるとされている.
解決方法の1つは適合格子細分化法(AMR法)を使用する1).それによって,非常に細かいメッシュが移動するストリーマヘッドの前に配置され,ストリーマヘッドの後ろのプラズマチャネルに少し粗いメッシュ,例えば,要素サイズ 50~70 mmとする.そこで本例題は,COMSOL MultiphysicsのAMR法による計算方法を示す.

COMSOL MultiphysicsのAMR法はL2ノルム誤差推定と関数による誤差推定という手法がある2).ここでは,L2ノルム誤差推定の手法を使って,エラーインジケーターを

 と定義した. は電子衝突反応速度である.細分化する格子の割合は次の式で計算される.

ここで,Nはベースメッシュの要素数, は格子を細分化する必要となる要素の細分化回数, である.
本例題は p = 1 bar と T = 300 K である80%N2および20%O2の乾燥した空気中のストリーマの放電を考慮する. 
モデル構造図3)を図1に示す.モデル領域は軸対称,Lr = Lz = 1.25 cm,φ0 = 18.75 kV である.
正イオンのシードは次の式で定義される3).

ここで, N0 = 5 × 1018m-3 , σ = 0.4 mm , z0 = 1 cm である.背景電子と背景正イオンの密度を ni = ne = 109m-3 とする.ストリーマ伝播の短い時間スケールにおける正イオンの輸送は無視される3)

図 1. モデル構造図.

本書では解析モデルおよび,解析結果を作成する手順を示した.
解析モデルは,プラズマの流体モデルに局所電界近似法を用い,移流拡散方程式とマクスウェル方程式を交互に解くが,紙数の都合でここではこれらの方程式の説明を省略する.
正極性ストリーマ放電の数値解析では,光電離反応の計算が必要になる.ここでは,数値シミュレーションによく利用された放射伝達法モデルが組み込んだ.

表1 ヘルムホルツ方程式による光電離計算に必要なパラメーター4)

図2にCOMSOLのアダプティブメッシュ細分化の設定画面を示す.設定については以下に纏められている.

  1. 物理メカニズムを捉えるのに十分に細分化された初期メッシュを定義する. 例:要素サイズ 50~70 μmである.
  2. 時間間隔長:0.08 ns とする.ストリーマ速度は 6 ×105 m/s3), 電荷分離層は 50 μmであれば,新しいメッシュを生成する時間間隔長は,50 μm / 6×105 m/s = 0.0835 nsである.
  3. アダプテーション法に「一般修正」,最大細分化回数に 5 とする.初期要素サイズは 60 μmであれば,細分化した後の要素サイズは,60 μm /2 /2 /2 /2 /2 =1.85 μm (~ 2 μm)になる. 
  4. 要素選択に「粗い表示のグローバル最小値」,要素カウント成長率因子を 5 とする.これは,ストリーマの本体と横方向の空間電荷密度の解像度を維持するパラメーターである.
  5. 誤差推定に「ユーザー」,誤差インディケーターに sqrt(d(comp1.edis.R_e,z)2 + d(comp1.edis.R_e,r)^2),サンプル点にrange(0.0,0.1,1.0)とする. 変数 comp1.edis.R_e は電子衝突反応速度である.

図3と図4にAMR法による空気中の正ストリーマの放電の計算結果である.ストリーマヘッドのメッシュの初期要素サイズを60 μmとし,メッシュの細分化は3回までされた.ガウス分布である正イオンのシードは電場を強化し,数ナノ秒以内に正ストリーマが下向きに発達する.

図2:COMSOLのアダプティブメッシュ細分化の設定画面

計算には,14 ns かけてストリーマが対極の近傍に到達した.光電離はストリーマヘッドの先端に集中し,ストリーマの進展を加速させたことが確認された.放電開始から 14 nsまでの計算時間(CPU: Intel(R) Xeon(R) Gold 6334 CPU @ 3.60GHz)は35分58秒,計算用のメモリ(RAM)は2.8 GBであった.

参考文献

  1. Y. V. Serdyuk, Propagation of Cathode-Directed Streamer Discharges in Air, Proceedings of 2013 COMSOL Conference in Rotterdam.
  2. 佟 立柱, 低温プラズマシミュレーションのための適合格子細分化手法, 計算工学講演会論文集, Vol.24 (2019年5月).
  3. Y. V. Serdyuk, Propagation of Cathode-Directed Streamer Discharges in Air, Proceedings of 2013 COMSOL Conference in Rotterdam.
  4. 佟 立柱, 低温プラズマシミュレーションのための適合格子細分化手法, 計算工学講演会論文集, Vol.24 (2019年5月).
  5. B. Bagheri, J. Teunissen, U. Ebert, et al., Comparison of Six Simulation Codes for Positive Streamers in Air, Plasma Sources Sci. Technol., 27, 095002 (2018).
  6. A. Bourdon, V. P. Pasko, N. Y. Liu, et al.Efficient models for photoionization produced by non-thermal gas discharges in air based on radiative transfer and the Helmholtz equationsPlasma Sources Sci. Technol., 16, 656–678 (2007).
図3:正ストリーマ放電(電界強度と電子密度)
図4:光電離レート

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