内部電流を考慮したガルバニック腐食のモデリング
鉄鋼材料の腐食を防ぐ方法(防食法)には様々な種類があるが、一般的に古くから使われているものにZnメッキを用いた防食法がある。例えば、道路の標識柱や電柱、工事現場のフェンスなど、日常的に目にしているものが多い。Znメッキは溶けたZnに鋼を沈めて作る溶融メッキ法や電気を流して製造する電気メッキ法などがあり、用途によって使い分けられ表面のZnメッキの厚みも10μm程度から、100μm程度まである。Znをメッキして防食するのは、ZnがFeよりも腐食し易い卑な金属であるためで、ガルバニック(異種金属接触)腐食の典型的な例である。そこで、Zn-Feカップルでのガルバニック腐食の計算を行った例を示す。
なお、本例題は計算中に金属の溶解によるジオメトリの変形、並びに拡散層の影響も考慮している。
厚み50μmのZnメッキが一部剥がれてFeが露出しているケースを想定し、図1に示した計算モデルを用いた。フィジックスインターフェースとしては、腐食解析(2次)と希釈種輸送を連成させた。電解質は、3%NaCl , pH7.0,溶存酸素濃度8ppmとし、導電率4.7 S/mである。
図2に示した分極曲線のような、外部電流iはトータルの電流、内部アノード電流ia、内部カソード電流icの和である。外部電流iを測定することができるが、内部電流ia、icは直接測定することはできない1)内部分極曲線は実測されたI-V曲線から推定されることになるため、ここでは、実際の防食電流密度に基づいて、内部分極特性をモデリングする2)
本書では解析モデルおよび、図3の解析結果を作成する手順を示した。
図1に示したモデルにおける電極反応はZn,Feともにアノード反応があり、Zn,Feそれぞれの溶解反応
Zn→Zn2++2e–
Fe→Fe2++2e–
として、カソード反応は両極とも酸素還元反応
O2+2H2O+4e–→4OH–
を考慮する。表12)に示すパラメーターをターフェル式
に与えた。
酸素の還元限界電流は希薄種輸送で拡散層を500μm厚みで設定することで考慮した。拡散層内での流速はゼロ、拡散層外では、下向きに0.1 cm/sの対流流速を設定した。希薄種輸送で計算する化学種は溶存酸素のみとし、酸素の拡散係数は、1.0×10-5cm2/sとした。
があり、uが対流流速、Rは電極表面カップリングで得られる反応速度である。
変形ジオメトリは、Zn,Fe電極表面に設定し、Znの密度7.14 g/cm3、モル重量65.38 g/mol,Feの密度7.86 g/cm3、モル重量55.85 g/molを与えた。
実際の環境では、溶液の濡れ乾きやZnの腐食生成物が表面に沈着する影響で、より溶解速度が小さくなる傾向になるが、ここでは、10日後の電解質電位・電流密度、ZnとFeの表面溶解電流密度および形状変形を図3に示している。ZnとFeの表面溶解電流密度と形状変形は大きな違いがあったことで、Znメッキにより、Feが防食されている結果が示された。
参考文献
1) 野田和彦,斉藤知, Ⅱ.腐食の電気化学測定法の基礎-分極曲線(電流-電位曲線), 材料と環境, Vol.67,No.1, 9-16 (2018).
2) 腐食防食協会編,「金属の腐食・防食Q&A,電気化学入門編」, 丸善 (2002).
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