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全固体電池のベンチマーク解析

公開日:2021年12月13日
最終更新日:2024年5月16日

薄膜型全固体電池のモデリング

近年、リチウムイオン電池の研究がさかんに行われている。その中で、負極、電解質、正極すべてが固体からなる全固体電池は、安全性と高エネルギー密度、長寿命を兼ね備えた究極の電池としてその開発が期待されている。電解液を用いた従来のリチウムイオン二次電池との違いは固体電解質である。固体電解質におけるLi+は格子欠陥を介してホッピングして移動する。単一イオン電解質とも呼ばれる。全固体電池はバルク型全固体電池と薄膜型全固体電池に大別されている。薄膜型全固体電池では、多孔質電極は使用されないため、全ての電気化学反応は、固体電解質と電極領域との間の界面で起こるため、バルク型全固体電池と異なる。
この計算例は、単一イオン伝導性電解質理論に基づいて、COMSOL Multiphysics®による薄膜型全固体電池の解析を行う。放電曲線の計算結果を試験値と比較することで、単一イオン伝導性電解質理論が薄膜型全固体電池の解析に適することを考察する。
本書では解析モデルおよび、図2の解析結果を作成する手順を示した。

計算ジオメトリは、図1に示すような、正極をLiCoO2,負極をLi,固体電解質をLiPONとする全固体電池の1Dベンチマークモデルである。固体電解質と正極領域との間の界面で起こったリチウム挿入脱離反応は、以下のように考慮される。

この電極反応に対するバトラー・ボルマー式は以下のように示される。

ここで、ilocは電荷移動反応電流密度、αaとαcはそれぞれアノードとカソードの電荷移動係数、${F}$はファラデー定数、${R}$は気体定数、${T}$は温度である。${η}$は過電圧を表し、η=ϕsl-Eeqであり、電極電位ϕsから電解質電位ϕlおよび平衡電位Eeqを引いたもので定義される。i0は交換電流密度、i(0,ref)はNernst式で示した基準平衡電位に対する交換電流密度である。csは正極内の${Li}$濃度、c(s,max)は${Li}$の最大濃度である。
${Li}$負極表面の電極反応は次式で考慮される。

バトラー・ボルマー式は以下のように示される。

正極内のLi輸送計算は次式で行われる。

ここで、DsはLi拡散係数、RLiは正極表面の電極反応レート、下付き添字ccは電流コレクターを意味する。
電解質と正極内の電流分布は以下の電流保存式を解く。

ここで、σlとσsはそれぞれ電解質と正極の導電率、QlとQsはソース項である。
図2に薄膜型全固体電池のベンチマーク解析結果を示している。放電曲線の計算値は試験値とよく一致したことで、単一イオン伝導性電解質理論が薄膜型全固体電池の解析に適することは明らかにされた。

参考文献

  1. 佟立柱,福川真,リチウムイオン電池・全固体電池のシミュレーション技術- Liイオンの輸送と反応に基づく電気化学モデルから集中パラメータによる電池モデルまで-,計算工学, Vol. 25, No. 4, 4145-4150 (2020).
  2. S. D. Fabre, D. Guy-Bouyssou, P. Bouillon, F. Le Cras, C. Delacourt, Charge/discharge simulation of an all-solid-state thin-film battery using a one-dimensional model, J. Electrochem.Soc., Vol. 159, No. 2, A104–A115 (2012).
  3. N. Wolff, F. Roder, U. Krewer, Model based assessment of performance of lithium-ion batteries using single-ion conducting electrolytes, Electrochim. Acta, Vol. 284, No. 10, 639-646 (2018).
  4. COMSOL Multiphysics@: https://www.comsol.jp/comsol-multiphysics and the Battery Design Module User’s Guide.

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