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腐食評価のための孔食解析モデル ~SUS304鋼の孔食のシミュレーション計算例~

ステンレス鋼は耐食性に優れ、また優れた金属光沢を維持できるため、多くのところで使用されている。特にSUS304(18Cr-8Ni)ステンレス鋼は流し台や水回りの材料として住宅用、また化学プラントや建築材料など数多くのところで使用されている。しかしながら、塩化物イオン(Cl)が存在する環境では孔食が発生することが知られている。SUS304鋼の孔食については、古くよりその発生と成長過程が研究され、解説にもまとめられている1,2)。彼らの記載内容をまとめると、SUS304鋼は通常は表面が不働態化しているので、腐食速度は非常に小さいが、塩化物イオン濃度の高い環境では、不働態皮膜の一部が破壊されそこから金属の溶解が起きる。その時に金属の電位が貴な状態にあることが進展の条件で、孔食は比較的きれいな楕円球状になる。この場合に、電位が高い方が楕円球状になり易く、低い電位では再不働態化もしくは孔食内の一部のみが腐食し続ける形態になる。また、孔食の進行過程では孔食内の溶液組成の影響で、孔食が進行し続けるか、止まるかを決めている。
孔食部の溶解速度は非常に速く、300secで50μmの深さにまで成長することもある3)。孔食部の電流密度を直接測定することは難しいが、孔食をモデル化した電極を用いて測定することで推定されている4,5)。本モデルでは、孔食の成長過程を変形ジオメトリー計算で再現することを行った。さらにその状態で、ステンレス鋼の局部腐食時のpH低下の原因と考えられているCr3+イオン加水分解反応(1)を連成して計算した。またH2Oの解離反応(2)も考慮した。

\(\rm {Cr^{3+}+3H_2O~→~Cr(OH)_3+3H^+}\)
\(\rm {H_2O~→~OH^-+H^+}\)

式(1)の反応の平衡定数と\(Kf\)はそれぞれ、

\(K_{eq}=1.02×10^{-10}\)、
\(K_f=1.0×10^{-14}\rm {(m^3/sec・mol^3)}\)

であり、式(2)は

\(K_{eq}=8.52×10^{-12}\)、
\(K_f=1.8×10^{-13}\rm {(1/sec)}\)

である6)

図1. 計算モデルの概要

計算は、軸対称2次元モデルを用いて行った。モデルの外観を図1に示す。初期の孔食として半径10μm、深さ1μmの形状を設定し、この領域が孔食として成長していく過程を計算した。計算に用いた分極曲線を図2に示す。不働態のアノード分極曲線は3.5%NaCl水溶液での実測値を用いた。溶液のpHも実測値5.5とした。
孔食部のアノード分極曲線はLiら5)の測定値の中で中間的な時間のものを採用した。不働態部のカソード分極曲線は溶存酸素の還元反応のターフェル式とし、平衡電位(\(E_{eq}\))、交換電流密度(\(i_0\))、ターフェル勾配(A)はそれぞれ

\(\rm {O_2+2H_2O+}4e^−~→~\rm{4OH^-}\)、
\(E_{eq}\rm ({V}vs.\rm {SHE)=1.228-0.059×pH}\)、
\(i_0\rm {(A/m^2)=1.8×10^{-8}}\)、
\(\rm {A(V/decade)=-0.12}\)

とした7)。電極はSUS304鋼で、密度8.03(g/cm3)、モル重量は55.34(g/mol)、溶解時の電気当量(z)は2.2、溶解は、Fe:0.716、Cr:0.197、Ni:0.087のモル比で溶解するとした。

図2. 分極曲線

本書では、SUS304鋼の孔食のシミュレーション手法を示すモデルおよび、2章以後に図3と図4の解析結果を作成する手順を示した。
計算は1800secまで実施した。孔食部の形状変化を初期値と比較して、図3に示す。孔食が半球状に進行する形状変化が計算で精度よく再現されている。

図3. 孔食部の形状変化 A:初期、B:1800sec

また、孔食入口のpH変化を図4に示す。孔食の成長とともにpHが低下していることが計算されている。孔食内部では溶解したCr3+イオンの加水分解反応でpHが下がっていくが、孔食内部のH+イオンの濃度上昇と共に外部へ拡散するので極端に低下するものではない。

図4. 孔食入口のpH変化

参考文献

1) 久松敬弘,防蝕技術,21,504-512(1972).
2) 佐藤教男,材料と環境,45,731-745(1996).
3) 矢代 仁,千葉俊朗,材料と環境,56,101-111(2007).
4) 鈴木紹夫,北村義治,防蝕技術,17,535(1968).
5) T.Li, J.Wu, G.S.Frankel, Corrosion Science,182,109227(2021).
6) 腐食防食協会編,「腐食防食ハンドブック」CD-ROM版,丸善,付録,代表的な電位-pH図.
7) 腐食防食協会編,「金属の腐食防食Q&A電気化学入門編」,丸善,p.59(2002).

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