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ハルセル試験槽の解析

公開日:2022年7月18日
最終更新日:2023年5月3日

めっきのハルセル試験は、少量の液を用いてハルセル水槽に陰極板(テストピース)のめっき処理を行い、めっき浴の状態を観察することができる有効な試験方法である。
電気めっきを行う場合は、陰極にどのように電流が流れるかを示す電流分布が重要な条件の 1つとなり、電流分布が被膜厚さの均一性に大きく起因する。その為、ハルセル水槽は特殊な形状をしており、陰極と陽極の極間距離を変化させて幅広い電流密度領域の観察が出来る。図1はハルセルを用いた亜鉛めっき実験図1)である。

図1. めっきのハルセル実験図
図2. 267mlハルセルの形状

標準の267mlハルセルの形状2)は図2に示す。めっきのハルセル試験では、平均電流密度を変化させた場合の電流分布の変化を調べ る。図3に示す電極表面に電流と電位の関係を表す分極曲線はバトラーボルマーの式で示される3)

\(i=i_0\left\{\exp\left(\frac{\alpha_a nF}{RT}\eta\right)-\exp\left(-\frac{\alpha_c nF}{RT}\eta\right)\right\}\)

過電圧\(\eta\)が充分大きい場合、バトラーボルマーの式をターフェルの式に変更できる。ここで対数をとると電圧と電流の関係は一般的に

\(\eta=a+b\log(\pm i)\)

と表される。\(a,b\)はターフェル定数と呼ばれ3)

\(\begin{align}
&\textbf{アノード分極}:a=-2.303\frac{RT}{\alpha_anF}\log i_{0},~b=2.303\frac{RT}{\alpha_anF}\style{color:red}{>0}\\
&\textbf{カソード分極}:a=2.303\frac{RT}{\alpha_cnF}\log i_{0},~b=-2.303\frac{RT}{\alpha_cnF}\style{color:red}{<0}
\end{align}\)

過電圧\(\eta\)が小さい場合、次式に示す線形化バトラーボルマーの式が得られる。

\(i=i_0\frac{(\alpha_a+\alpha_c)nF}{RT}\eta\)

本書では解析モデルおよび、図4の解析結果を作成する手順を示した。

モデルは図2に示すような、3Dで作成される。電解質を、導電率0.5S/cmの硫酸銅水溶液であると想定する。Cu2+の濃度勾配はモデルでは考慮していないため、2次電流分布を計算する。電極の材料は両方とも銅である。電極反応は以下のように考慮される。

\(\rm Cu^{2+}(aq)+2e^-\Leftrightarrow Cu(s)\)

電極反応速度モデルは、過電圧\(\eta\)と電極反応電流密度\(i_\text{loc}\)の間にターフェルの式で表される4)

\(\begin{align}
&\textbf{アノード}:\eta=5E-5i_\text{loc} \\
&\textbf{カソード}:\eta=-0.0551-0.0909\log(-i_\text{loc})
\end{align}\)

本例題はCOMSOL Multiphysicsの電気めっきモジュールを利用するため、ターフェルの式は次式で変更される。

\(\begin{align}
&\textbf{アノード}:i_\text{loc}=\eta/A_{\rm an} \\
&\textbf{カソード}:i_\text{loc}=-i_0\times10^{(\eta/A_\text{cat})}
\end{align}\)

ここで、\(i_0=10^{-a/b}=0.24765{\rm A/m^2},~A_\text{an}=5\times10^{-5}{\rm [V・m^2/A]},A_\text{cat}=-0.0909\rm[V]\)である。

計算には、アノードは接地、カソードに平均電流密度50A/m2、100 A/m2、200A/m2を印加する。めっき時間はそれぞれ28min、14min、7minである。図4に電極表面の電流分布およびカソード表面の膜厚分布を示している。

図4. ハルセル試験槽の計算結果

1) Electroplating: http://en.wikipedia.org/wiki/Electroplating
2) 小西三郎 , ハルセルによるめっきのいろいろな性質の測定法とその問題点 (上 ), 実務表面技術 , Vol. 25, No. 7, 322-328 (1978).
3) 外島忍 佐々木英夫, 電気化学 改訂版 一社 )電気学会 1987.
4) Femtet: https://www.muratasoftware.com/products/examples/cou008/

*該当のCOMSOLモデルファイルと手順書をご要望のお客様は下記よりダウンロードいただけます。

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