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SOEC(高温水蒸気電解セル)の解析

公開日:2023年10月19日

我が国がパリ協定の $\mathrm{CO}_{2}$ 排出量削減目標を達成するためには、$\mathrm{CO}{2}$フリー水素や再生可能エネルギーの活用が不可欠である。水の電気分解(以降、水電解と略称)は再生可能エネルギー由来の電力で稼動すると完全に脱炭素が達成でき、最も望ましいクリーン水素製造法である。水電解装置にはいくつかの方式があり、現時点では、アルカリ水電解と固体高分子形水電解 (Polymer Electrolyte Membrane, PEM 水電解) および高温水蒸気電解 (Solid Oxide Electrolysis Cell, SOEC) が実用されている。
アルカリ形水電解は、電解質に高濃度の水酸化カリウム水溶液を利用し、カソード電極には $\mathrm{Ni}$系あるいは鉄、アノード電極にはNi系と比較的安価で潤沢な材料を用いることができるのが特長である。PEM形水電解は、電解質にプロトン伝導性の固体高分子膜を利用するのが最大の特徵である。電流密度を高く取ることや純水を利用することが可能であることから、アルカリ形に比較して設備がコンパクトであることや、得られる水素純度がアルカリ形に比べて高いというメリットがあるが、触媒として希少な貴金属(Ir, Pt)の利用が必要とされる課題が残っている。 $\mathrm{SOEC}$、大きな特徴として電解質のイオン伝導に高温が必要となるため作動温度が $650-1000^{\circ} \mathrm{C}$程度となる。カソード電極にはNiやCe系の材料が、アノード電極にはペロブスカイト形のランタンコバルト酸化物系の材料が、電解質には酸化物イオン $\left(\mathrm{O}^{2-}\right)$ 導電性を持つYSZなどからなる固体酸化物形電解セル (Solid Oxide Electrolysis Cell, SOEC) が用いられる。SOECは高温動作で構成材料が全て固体であることに起因して、以下に示すような特徴を持つ。

(1) 低温動作の各種水電解システムと比較して高効率が期待できる
(2) 電極に白金等の貴金属が不要
(3) 原料水の管理が容易
(4) 複雑な分離操作なしに高純度の水素が得られる
(5) 可動部がなく、構造が単純で取り扱いが容易

一方、水蒸気電解技術としては電解質により、固体酸化物形電解セル(SOEC)とプロトン伝導形セラミック電解セル(Protonic Ceramic Electrolysis Cell, PCEC)の2種類がある ${ }^{1)}$ .PCECは水素発生側に水蒸気が発生しないため、効率の指標の一つである開回路電圧 (Open Circuit Voltage, OCV)が高く、SOECと比較し電解部の効率が低くなるという短所がある。SOECでは既に商用化されている。ドイツのSunfire $\mathrm{GmbH}$ は $150 \mathrm{~kW}$ 程度のSOECを $750{ }^{\circ} \mathrm{C}$ 付近で運転させる。ここでは、SOECの解析を目指している。
図1 に平面水蒸気電解セル (SOEC)を示す。水の還元反応と酸素の生成する反応は次式で表される ${ }^{1)}$ 。

$$
\text { カソード : } \mathrm{H}_{2} \mathrm{O}+2 e^{-} \rightarrow \mathrm{H}_{2}+\mathrm{O}^{2-} \tag{1}
$$

$$
\text { アノード }: \mathrm{O}^{2-} \rightarrow 1 / 2 \mathrm{O}_{2}+2 e^{-} \tag{2}
$$

図 1. 平面水蒸気電解セル (SOEC).

正味の反応式は式(3)に従う。

$$
\mathrm{H}_{2} \mathrm{O} \rightarrow \mathrm{H}_{2}+1 / 2 \mathrm{O}_{2} \tag{3}
$$

SOECの平衡電圧はネルンストの式(4)で表される ${ }^{3)}$。

$$
\mathrm{E}{\mathrm{eq}}=\mathrm{E}{0}+\frac{R T}{2 F} \ln \left(\frac{c_{\mathrm{H}{2}} c{\mathrm{O}{2}}^{1 / 2}}{c{\mathrm{H} 2 \mathrm{O}}}\right) \tag{4}
$$

ここで、 $\mathrm{E}_{0}$ は標準電位と呼ばれ、 $\mathrm{E}_{0}$ の値は経験式によって計算される ${ }^{3)}$。

$$
\mathrm{E}_{0}=1.253-2.4516 \times 10^{-4} \cdot T
$$

平衡電圧 $\mathrm{E}{\mathrm{eq}}$ はカソード側とアノード側に分割され、カソード平衡電位 $\mathrm{E}{\mathrm{eq}, \mathrm{c}}$ とアノード平衡電位 $\mathrm{E}_{\mathrm{eq}, \mathrm{a}}$ で表される ${ }^{4)}$

$$
\text { カソード: } \quad \mathrm{E}{\mathrm{eq}, \mathrm{c}}=-\frac{R T}{2 F} \ln \left(\frac{c{\mathrm{H} 2}}{c_{\mathrm{H}{2} \mathrm{O}}}\right) \tag{6}
$$
$$
\text { アノード : } \mathrm{E}{\mathrm{eq}, \mathrm{a}}=\mathrm{E}{0}+\frac{R T}{2 F} \ln \left(c{\mathrm{O}{2}}\right)^{\frac{1}{2}} \tag{7}
$$
$$
\text { ここで、 } \mathrm{E}{\mathrm{eq}}=\mathrm{E}{\mathrm{eq}, \mathrm{a}}-\mathrm{E}{\mathrm{eq}, \mathrm{c}} \text { である。 }
$$

図 2. 解析モデル ${ }^{3)}$.

本例題は、図2のように、中温水蒸気電解セル (IT-SOEC、723 1073 K) ${ }^{3)}$ に基づいて、カソードに水素ガス、アノードに酸素ガスが発生することによって、セル内の電流分布は、カソード側の水素と水蒸気、アノード側の酸素と窒素の物質輸送と連成計算を行い、SOECの解析手法を示す。COMSOL Multiphysicsの多物理系の解析設定については図3 に示される。

図 3. COMSOLの多物理系の解析物理インターフェース (Ver.6.1)

熱力学ノードと化学ノードを用いて、ガス混合物の特性が自動的に定義され、電極反応の平衡電位と反応速度論を計算する。固体電解質の導電率が一定であると仮定し、2次電流分布インターフェースの多孔質ガス拡散電極における電極反応および電荷輸送計算を定義する。ガスの物質輸送計算は濃縮種輸送(多孔質媒体)インターフェースによって行われる。流れをブリンクマン方程式インターフェースによって計算する。

本書では、解析モデルおよび、2章以後に図4 の解析結果を作成する手順を示す。
図4に電流密度が $5000 \mathrm{~A} / \mathrm{m}^{2}$ であるSOECにおける電解質電位・電流密度、ガスの流速・密度、化学種濃度およびI-V特性を示している。温度は1073.2Kである。ガスはガスチャネルにおいて大体等速度で流れている。ガス中の水素含有量が増加することで、出口に向かうにつれて密度は減少する。また、多孔質ガス拡散電極において多くの水素が発生するため、密度を著しく減少させる。水蒸気の濃度は式(1)によって、電流密度が増加するとともに、水蒸気の濃度は減少する。多孔質ガス拡散電極におけるガスチャネルに離れた隅に水蒸気の濃度が低下することを示している。これは、高電流密度を印加する時、こちらの水蒸気の濃度がマイナスになり、収束問題になることを⽰唆する。

図 4. 水蒸気電解セル(SOEC)の計算結果.

参考⽂献

1) 李 坤朋,荒⽊拓⼈,森 昌史, プロトン伝導体/酸化物イオン伝導体形⽔蒸気電解による

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