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Ar・CH4混合ガスを用いたICPプラズマの3Dモデル

公開日:2024年5月20日
最終更新日:2024年5月20日

半導体製造プロセスにおけるエッチング装置の多くは容量性結合型プラズマ (Capacitively Coupled Plasma; CCP) と誘導性結合型プラズマ (Inductivity Coupled Plasma ;ICP) に区分される。CCPはおよそ $10 \sim 1000 \mathrm{~Pa}$ のやや高い圧力で用いられるが、一般にICPは数Pa程度の低圧力に用いられることが多い。誘導結合型プラズマ(ICP)は、構造が簡単で高密度プラズマを生成でき、大型プラズマへの展開を進めている。

誘導結合型プラズマ(ICP)では、コイルに高周波電流を流した際に発生する磁束の時間変化に伴い生じる誘導電界によって電子を加速させ、プラズマを生成・維持する。ガス導入ロやアンテナ形状による非対称のプラズマ特性を検討するため、近年はICP装置の3次元プラズマシミュレーションが行われた${ }^{(1)(2)}$。しかしながら、高周波アンテナとしたコイル高周波電流が流れるため、表皮効果を考慮した解析は必要である。現在、表皮効果を反映させるためにコイル内に層状のメッシュを採用し、コイルの内表面の近傍に非常的な細かいメッシュを生成した。3Dメッシュを作成すると、計算モデルの総セル数が多くて、計算は長い時間がかかる。研究開発の効率化に迫られている産業界では、3次元プラズマ解析用のコイルの効率的な計算方法が必要になる。本例題では、COMSOL Multiphysics(以下、COMSOLと略称)を用いて、誘導結合プラズマ(ICP)の3Dモデルを構築する。ドメインコイルを境界コイルに取り替えて、計算効率を検証する。

図 1 に誘導結合プラズマ(ICP)の3Dモデルを示す。誘導結合プラズマ(ICP)は、セラミック窓の上部にあるコイルによって $13.56 \mathrm{MHz}$ で生成される${ }^{(2)}$。ガスは $\mathrm{Ar}^{2} \mathrm{CH}_{4}$ である。化学種は、

電子 $ : \mathrm{e}^{-}$
原子 : $\mathrm{Ar}$
分子 : $\mathrm{H}{2}, \mathrm{CH}{4}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{2}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{4}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{6}$
イオン : $\mathrm{Ar}^{+}, \mathrm{H}{2}^{+}, \mathrm{H}^{+}, \mathrm{CH}^{+}, \mathrm{CH}{2}^{+}, \mathrm{CH}{3}^{+}, \mathrm{CH}{4} 4^{+}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{2}^{+}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{4} 4^{+}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{5}^{+}, \mathrm{C}{2} \mathrm{H}{6}+$
ラジカル : $\mathrm{H}, \mathrm{CH}^{2}, \mathrm{CH}{2}, \mathrm{CH}{3}$
励起種 : $\mathrm{Ar}^{}, \mathrm{CH}_{4}{ }^{}(2 v i b.)$

と取り扱いされる。化学反応式は表1に示される。

表1に示した化学反応式、電子衝突断面積$\sigma$のおよび反応速度係数 $k$ とともに化学種の特性や表面反応などをCOMSOL専用の「プラズマ化学アドイン」によって、COMSOLプラズマ($\mathrm{plas}$)インターフェースにインポートする。「プラズマ化学アドイン」では、テキストファイルから完全なプラズマ化学データを自動的に作成できる。図2にCOMSOL「プラズマ化学アドイン」を示す。

完全なプラズマ化学が含まれるテキストファイルを図3に示す。アルゴン-酸素プラズマ化学データを示している。 
本書では、解析モデルおよび3Dモデルの構築、2章以後に図7の解析結果を作成する手順を示す。

計算には, $50 \% \mathrm{Ar} / 50 \% \mathrm{CH}_{4}$ 混合ガスの圧力は $10 \mathrm{mTorr}$ ,コイル電流は $100 \mathrm{~A}$、ガス温度は$300\mathrm{K}$とする。電子エネルギー分布関数 (EEDF)はDruyvesteyn 分布と仮定される(3)。COMSOL磁場$(m f)$とプラズマ$(plas)$インターフェースを連成させる。3次元ICPプラズマモデルを構築するには、コイルの領域を磁場の計算領域に含まれるかどうかによって、ドメインコイルと境界コイルのどちらかを利用する。ICP プラズマの計算では、コイルの表皮効果を考慮する必要である。コイル内部を計算する時に表皮効果を反映させるため、図 4(a)に示したような層状のメッシュを作成する。コイルの内表面の近傍に非常的な細かいメッシュを生成することで、3次元モデルを構築する際、コイルの外側に細かいメッシュも必要になる。そのため、計算モデルの規模が大きくなり、メモリ不足や非常に長い計算時間のトラブルが起こる。

本例題は COMSOL 磁場 $(m f)$ インターフェースの境界コイルを採用した。図5に示した境界コイルの設定において、銅の表皮深さ D_surf を入力した。これによって、コイル内部を計算しなくても、3次元 ICP プラズマの計算は可能になる。図4(b)に境界コイルを採用したコイルのメッシュを示す。計算には、このようなコイルの表面メッシュのみを利用し、コイルの外側に3次元モデルのメッシュが容易に作成できる。図6は計算用メッシュを 示している。要素数は33930、平均要素品質は 0.5923であり、5層の境界層メッシュを作成した。

計算は $0.01 \mathrm{~s}$ まで行われた。ソフトのログ記録は

求解時間: $6956 \mathrm{~s}$ (1 時間, 55 分, 56 秒)
物理メモリ: 17.54 GB
仮想メモリ: 19.18 GB

である。計算用のパソコンスペックは以下に示す。

  1. OS: Windows 10 Pro
  2. プロセッサ: Intel(R) Xeon(R) Gold 6334 CPU @ 3.60GHz 3.70 GHz
  3. 実装 RAM 128 GB
図 7. 誘導結合プラズマ(ICP)における空間分布および反応器の中心軸上の計算結果.

図6に $50 \% \mathrm{Ar} / 50 \% \mathrm{CH}_{4}$ 混合ガスとしたICPプラズマにおける磁束密度、電子密度、電子温度、CH4+イオンとラジカルH原子の数密度および反応器の軸線上の各イオンの数密度分布を示す。ラジカルH原子はウェーハ上にダイヤモンド状炭素薄膜を堆積/エッチングする主要な供給源であることが既に報告された(4)。本例題では、ラジカルH 原子の数密度の最大値は1.2×1019 m-3を超えた。H原子の分布を推定することは、高品質のダイヤモンド薄膜堆積の解析技術となるだろう。

参考文献

  1. 池田圭,奥村智洋,Vladimir KOLOBOV, マルチスパイラルコイルを用いた誘導結合型プラズマの3 次元シミュレーション, 真空 50 (6): 424-428 (2007).
  2. Yejin Shona, Sora Lee, Dong-gil Kim, Deuk-Chul Kwon, and HeeHwan Choe, Inductively Coupled Plasma Discharge Simulation for the Semiconductor Process Considering Impedance Calculation in 3D Asymmetric Structure, Appl. Sci. Converg. Technol. 29(2): 23-27 (2020).
  3. Lizhu Tong, Effect of Gas Flow Rate and Gas Composition in Ar/CH4 Inductively Coupled Plasmas, Proc. of the COMSOL Conf., Boston (2011).
  4. H. C. Barshilia, V. D. Vankar, Concentration of Atomic Hydrogen in the Ground State in a CH4-H2 Microwave Plasma, J. Appl. Phys., 80(7), 3694-3698 (1996)

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