HILS・MILS・SILSの違いとは?制御システムのシミュレーション手法を解説

制御システムの開発において、シミュレーションは重要な役割を果たします。特に、自動車、航空宇宙、産業機器などの分野では、開発期間の短縮やコスト削減のために、仮想環境でのテストが広く活用されています。その中でも、「HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)」「MILS(Model-in-the-Loop Simulation)」「SILS(Software-in-the-Loop Simulation)」という3つの手法がよく使われます。
本記事では、それぞれのシミュレーション手法の特徴や違い、活用方法について詳しく解説します。
目次
- MILS(Model-in-the-Loop Simulation)とは?
- SILS(Software-in-the-Loop Simulation)とは?
- HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)とは?
- MILS・SILS・HILSの違いと使い分け
- まとめ
MILS(Model-in-the-Loop Simulation)とは?
MILS(Model-in-the-Loop Simulation)は、モデルを使って制御システムの動作を検証するシミュレーション手法です。制御対象の物理モデルと制御アルゴリズムを同じシミュレーション環境で動作させることで、制御ロジックの初期検証を行います。
MILSの特徴としては、開発の初期段階で制御対象とコントローラーどちらも詳細なモデルではなく、簡易モデルなどを使用して検証できることです。これにより、設計の初期段階で制御アルゴリズムの妥当性を確認し、さらにシステム全体の検証をすることで、後工程での設計コスト増大を防ぐことができます。
MILSの活用事例
MILSは、制御アルゴリズムの初期検証に広く活用されています。例えば、自動車業界では電動パワーステアリング(EPS)の開発において、制御ロジックの妥当性を確認するためにEPSで利用されている事例があります。数理モデルを用いて、様々な運転条件下での操舵応答をシミュレーションすることで、制御の最適化が可能になります。
また、MBDや1DCAEにおいてもMILSは重要な役割を果たします。ロボットアームの関節モジュールの制御アルゴリズムを数理モデルで検証することで、実機試験を行う前に動作軌道の最適化やエネルギー効率の向上を図ることができます。
SILS(Software-in-the-Loop Simulation)とは?
SILS(Software-in-the-Loop Simulation)は、実際の制御ソフトウェアをシミュレーション環境で動作させる手法です。MILSでは理想的なモデルを用いて制御の検証を行いますが、SILSでは実際のプログラム化されたソフトウェアを使用して検証を進めます。
SILSの特徴は、実際の制御ソフトウェアを使用することで、実装上の問題を検出しやすくなる点です。組み込みソフトウェアのテストを行う前に、SILSを活用して事前検証を行うことで、コードのバグを発見しやすくなります。また、制御ロジックとモデルの整合性をチェックする際にも有効です。
SILSの活用事例
SILSは、実際の制御ソフトウェアが意図した通りに動作するかを検証するために使用されます。自動車業界では、ブレーキ制御システム(ABS)の開発にSILSが導入され、シミュレーション環境内で制御コードの動作を確認することができます。例えば、急ブレーキ時のタイヤのロックを防ぐ制御アルゴリズムが適切に機能するかを事前にテストし、パラメータ調整を行います。
また、航空機のフライトコントロールシステムにおいてもSILSが活用されています。飛行条件の変化に応じた制御応答をシミュレーションし、制御アルゴリズムが意図した通りに機能するかを確認することで、実機試験のリスクを軽減できます。
HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)とは?
HILS(Hardware-in-the-Loop Simulation)は、実際のハードウェアを用いたシミュレーション手法です。制御対象のモデルは仮想環境で動作し、制御器は実際のハードウェアを使用することで、より現実に近い環境でのテストを行うことが可能になります。
HILSの特徴として、実機の制御ハードウェアを使用する点が挙げられます。リアルタイムシミュレーションを活用することで、実際の運用環境に近い形で制御システムを評価できるため、ECU(電子制御ユニット)テストや航空機の制御システム評価、産業用ロボットの動作検証などに広く活用されています。
HILSの活用事例
HILSは、実際のハードウェアを用いた制御検証を行うために利用されます。例えば、自動車のエンジン制御ユニット(ECU)のテストにおいて、HILSを活用することで、実際のエンジンを用いることなく、エンジン制御の挙動をリアルタイムでシミュレーションできます。これにより、燃料噴射のタイミングやアイドリング制御の最適化を効率的に行うことができます。
さらに、鉄道システムの信号制御の評価にもHILSが活用されています。信号機の動作や列車のブレーキ制御をリアルタイムでシミュレーションし、異常発生時の動作を事前に検証することで、安全性の向上につなげることができます。

MILS・SILS・HILSの違いと使い分け
MILSは、MBD(モデルベース開発)や1DCAEにおいて、設計の初期段階で使用されるシミュレーション手法です。基本的な制御アルゴリズムの妥当性を検証するために、詳細な物理モデルではなく簡易モデルを使用してシミュレーションを行うことができます。SILSでは、実際の制御ソフトウェアを統合したテストが行われ、コードレベルでの動作検証が可能になります。一方、HILSでは実機との連携を行い、リアルタイムでの評価が求められます。これらの手法を適切に組み合わせることで、開発プロセス全体の効率化が図られ、設計の精度向上やコスト削減につながります。
まとめ
HILS、MILS、SILSは、それぞれ異なる目的で使用されるシミュレーション手法です。MILSは数理モデルを活用した制御アルゴリズムの初期検証に適しており、ソフトウェア環境内でシステムの挙動をシミュレーションすることで、制御ロジックの妥当性を確認できます。SILSは実際の制御ソフトウェアを用いるため、プログラムの実装段階での問題を検出しやすく、組み込みコードのテストにも活用されます。そして、HILSは実機のハードウェアと連携し、リアルタイムの制御検証を行うことで、実環境に即した性能評価が可能になります。
これらの手法を適切に使い分けることで、開発の効率を向上させ、信頼性の高い制御システムを構築することが可能になります。各業界のニーズに応じて最適なシミュレーション手法を選択し、より高品質なシステム開発を目指しましょう。
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