計測エンジニアリングシステム株式会社

計算工学とデータサイエンス

計算工学とデータサイエンス

計算工学(Computational Engineering)はCAE(計算機支援工学)に代表されるように、数理モデル、基礎方程式に含まれる材料データ(密度、粘性係数、ヤング率、ポアソン比、熱伝導率、定圧比熱、電気導電率、屈折率、拡散係数、電気易動度(電気移動度)など)、デジタル化された物体形状、初期条件、境界条件を用意することができれば有限要素法といった数値解法を使って計算を行い、現象の予測や分析ができます。一方で、材料データやデジタル化された物体形状を用意するにはそれなりの労力と費用が必要です。未知の材料では材料データを購入する、あるいは実験をして材料データを採取する必要があります。物体形状もSTLデータの形で購入するかあるいは実測して形状をデジタル化する必要があります。それらを元に計算工学で求めた結果はデジタルデータとして現象の理解や設計データあるいはデータサイエンスに活用されます。

データサイエンス(Data Science)はデジタルデータをもとにして分析や予測(回帰)を行います。また、データサイエンスはネットワークを通じて世界中の画像や数値といった様々なデータを瞬時に集めてきます。IoTを使えば、ネットワークにつながっている工場プラントから家庭の冷蔵庫・洗濯機などからデジタルデータを採取できます。 このように、計算工学とデータサイエンスはお互いをうまく活用することができそうです。

計算工学とデータサイエンス

計算工学とデータサイエンスのシナジー

以下に、計算工学とデータサイエンスの相乗効果について考えてみます。

計算工学

  • 数理モデルの構築

    数理モデルとして物理モデル、シミュレーション、最適化検討用のモデルを構築します。これらは、データサイエンスから提供されるデータを用いて、現実世界の複雑な現象を予測・解析します。

  • パラメータ推定

    データサイエンスの技術を用いて、計算工学に用いる数理モデルのパラメータを最適に推定します。例えば、機械学習アルゴリズムを用いたフィッティングや最適化手法を適用します。

データサイエンス

  • 多様なデータソース

    データはサイトへのアクセス件数から日々の取引データや気象データ、あるいは各種の実験データ、製造工場の製品監視画像など多岐にわたります。データサイエンスはこれらのデータを収集し適切なフォーマットに整形します。

  • データクリーニング

    データの品質を保つために、欠損値の補完や異常値の除去、データの標準化を行います。現在のデータサイエンスはここに多大なる労力を割いています。

計算工学とデータサイエンスのシナジー

  • データの統合

    異なるデータソースから収集されたデータを統合し、効率的な管理をするための仕組みを構築する必要があります。そうすれば計算工学の解析モデルが必要とするデータを一元管理できます。

  • モデルの評価と改良

    データサイエンスの手法であるクロスバリデーションを用いて、計算工学の解析モデルがもつ精度を評価します。モデルの予測結果と実際の観測データを比較し、モデルの改良へ向けたフィードバックを行います。これによってモデルの精度を継続的に向上させることができます。

  • 応用と意思決定支援

    データサイエンスは計算工学の予測結果を視覚化しわかりやすく提示します。これを可視化(Visualization)といいます。これによって、意思決定をする人がデータに基づいた洞察力(insight)を得やすくなります。

  • 意思決定の自動化

    計算工学の予測結果をリアルタイムで利用するための自動化システムを構築します。これによって、迅速な意思決定が可能になります。実際に計算工学の市販ソフトウェアCOMSOL Multiphysics®ではデータサイエンスの手法であるディープニューラルネットワーク(DNN)を数理モデルと組み合わせ、さらにアプリ作成および実行形式ファイルの配布環境を整えています。従って、計算工学とデータサイエンスのシナジーを推進するための環境はすでに整っていると言えます。

継続的な改善と研究

  • データの更新

    データサイエンスは新しいデータを継続的に収集し、モデルの精度を維持向上させる必要があります。

  • 研究と開発

    計算工学とデータサイエンスの両方の分野での最新の研究成果や、応用数学での新しい理論などを積極的に取り入れ、常に最新の技術と知識を活用できることが重要です。

  • 今後の予想

    計算工学とデータサイエンスのシナジーを最大限に活用することで、より正確で信頼性の高い予測と分析が可能になります。このアプローチは、技術的な洞察と実際的な応用を結び付け、複雑な問題に対する解決策を提供すると考えられます。その副産物として、重要なデータであるにも関わらず収集できないデータが何かということがクローズアップされ、実験やセンサーの導入や、採取した実験値をデータロガーに収め、それをIoTを通じて公開データとするためのシステム開発が行われるといったことも促進されます。このように計算工学、データサイエンス、従来のシステムの改良といったことが急速に進むと予想されます。