数理工学と応用数学
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数理工学と応用数学
数理工学は数理モデルと計算技術を用いて工学的な問題を解決する学問です。そこではコンピューターを使った数値シミュレーションが行われます。数理モデルは、現実のシステムや現象を数学的な形式で表現するものです。数理モデルは一般に微分方程式(常微分方程式や偏微分方程式)が用いられます。数理モデルによる解析では数理モデルを表現する数式の計算や方程式の数値解を求める必要があり、それには数値解析が必要です。数値解析とは実務家では主に現象に数値的手法を適用して解析・解明するという意味に用いられ、数学的な問題をコンピューターによって解くための方法論や技術のことと捉えています。数学者やその周辺では数値計算法の原理や得られる数値解の挙動を数理的に解明することを意味するといった具合で、立場によって言葉の意味も変化することを覚えておく必要があります。応用数学(Applied Mathematics)は数学的な理論と手法を現実世界の問題に適用する学問分野で近似理論である数値解析を含んでいます。応用数学は自然科学や工学での適用から、近年では、経済学、社会科学、神経科学、医療と多岐にわたっています。神経科学からはニューラル・ネットワークの理論が生まれています。
CAE(シー・エイ・イー、計算機援用工学、Computer-Aided Engineering)は数理工学の理論と手法を広く応用していますが、CAEでは設計での問題解決を図ることが最重要課題であり、機能や性能の検討、さらに製品を製造するための成形性や加工性の検討も含まれてくるところに違いがあるとされています。CAEの課題は高度化しており、流路の最適化などでは生物模倣(Biomimetics)による自動設計といった数理工学の知識の活用も行われています。CAEでは計算負荷や予測に要する時間の短縮といった課題も生じており、ディープ・ニューラル・ネットワークによるサロゲートモデルの利用やトポロジー最適化といった応用数学の成果をどんどん取り入れています。
このように、数理工学、応用数学はお互いに補完する関係にあるようです。CAEという工学的問題を解決する立場ではそれらの成果をうまく活用することが大切です。CAEと実測との比較検証を通じて未知の課題に出くわしたら、それを数理工学、応用数学の面から検討を加えて解決を図る作業も大切なことです。それをきっかけとして数理工学と応用数学が発展し、新しいCAEの手法やアルゴリズムの開発を促進し、それがエンジニアリングのイノベーションを推進するでしょう。
以下で、数理工学のプロセスがどのようなものか一例を示します。数理工学は工学問題毎に方法を考えるのではなくて問題に潜む共通の構造を抽象化した数理モデルを使って問題解決のための普遍的な方法を見出すといったようないろいろな考え方があり、それに応じてプロセスも異なりますので一つの考え方として理解してください。
数理工学のプロセス
問題の定義と目標の設定
解決すべき具体的問題の明確化、性能向上、コスト削減、安全性の確保といった視点から行います。
満たすべき条件の設定
問題の範囲や制約条件を設定します。境界条件、初期条件についても検討します。
数理モデルの構築
方程式の設定(物理法則や工学的原理に対応するもの)、解析的手法(解析解が得られる場合)、数値的手法(解析解が得られない場合)
数値解法の選定
数値解法(有限要素法、有限差分法、有限体積法、境界要素法など)を検討します。数値解法の選定では利用可能な計算機資源を想定しておくことが重要です。
コンピューターへの実装
解くべき方程式と適用する数値解法、利用するプログラミング言語とコンピューターに適した計算アルゴリズムを設計し、作成したプログラムをコンピューターへ実装します。ソルバーには、直接法(Direct Solver)と反復法(Iterative Solver)があり、さらに線形ソルバーと非線形ソルバーを問題に応じて使い分けます。有限要素法を利用する場合は、弱形式から全体方程式系を導出する過程はルーチン化できます。各物理分野特有の工夫が必要な場合もありますが全体方程式を得るまでの大部分の導出過程は共通しており、有限要素解析が広い物理分野で汎用的に利用される所以です。
シミュレーション結果の可視化
数値解析結果の可視化を表、グラフ、コンピューター・グラフィックス(静止画、動画)、サウンド発生、3Dプリント、で可視化し、評価・検討を行います。自作か市販ソフトウェアの利用などのケースがありますが、上述のプロセスはプログラムを自作し、シミュレーションを行うことを想定して記述しています。市販ソフトウェアを利用する場合にはCAEで言うところのプリ処理(各種条件設定、ジオメトリ作成、方程式と初期値・境界値の設定、メッシュ作成)、ソルバー(数値解法による数値解析部分)、ポスト処理(結果の可視化)を行うことになります。
数理工学の例
ここでは市販のソフトウェアを使うことを想定した例を示します。
問題の定義と目標設定
新しい感染症の拡大を予測し、対策を立案します。
数理モデルの構築
- SEIRモデル(感受性者-接触者-感染者-免疫獲得者)を使用します。
- 初期条件やSEIRモデルに含まれるパラメーター値を準備します。
数値解法の選定
SEIRモデルは感染者数の時間変化を解析する常微分方程式であるので適した常微分方程式に関する数値解法を選択します。
シミュレーションの実行と結果の可視化
市販ソフトウェアを動かして、感染者数の時間変化を計算し、横軸に時間を、縦軸に 感染者数をとったグラフにプロットすることで感染者数の時間変化を可視化します。
感染データとの比較
シミュレーション結果と実際のデータを照合し、必要であれば、パラメーター値などを調整して、シミュレーション結果と実測結果が妥当な範囲で一致するようにパラメーターの最適化を行います。 感染者数をとったグラフにプロットすることで感染者数の時間変化を可視化します。
対策の提案と実施後のモニタリング
実測を反映したSEIRモデルを使って、最適な対策の検討を行い、よい対策が得られたら提案をします。実施された場合には効果をモニタリングします。 感染者数をとったグラフにプロットすることで感染者数の時間変化を可視化します。